指板交換
仕上がりの連絡を受けて、アルさんを工房まで迎えに行くことになっていたその日は、雲一つない最高のドライブ日和。
こういう日は悪い事が起こる気が全然しない。でもドキドキ…
愛車FIAT500のハンドルを握ってこのまま関越道を新潟まで走り抜きたい気分に駆られながらも、川越でインターを降り、狭山の桜井ギター工房へ。
12月にベトナムツアー仲間たちと一緒に工房を案内していただいた際、気軽にお願いしてきたものの、指板全取っ替えといえば、滅多にない大工事。
指板(あるいはフレット)交換については、手元に桜井さんの記事(現代ギター1999年1月号「ギターを識ろう」vol.10)のコピーが大切に取ってありました。
興味ある方はタップかクリックで拡大してお読み頂けます。
私の場合もちろん要交換の状態だったわけではなく、全く支障も不満もなかったのですが、やればここが良くなる、という桜井さんの言葉に乗っかってのことでした。
もしこれを手術に見立てるなら、桜井さんはギターを知り尽くした名医だから(他にも愛器に桜井さんの手によって同じ手術を施された著名ギタリストがいる!)ポンと託してきたのです。
が実際入院期間が長くなり、名医を信じて心配はしていないものの、とにかく家にあるギターでの練習が乗らない。練習しなきゃ、と焦るんだけど主要なエチュードをいくつか弾いて指を動かしたら、お終い。それ以上は、あまり曲を弾こうという気にはならない。
いかにアルさんが素晴らしい楽器で私をインスパイアしてくれていたかを感じました。
愛猫の不在もかなり寂しいが、愛器の不在も同じ。
そんなこんなな3ヶ月弱を経て、クリーニングされて艶をまとい、私の元に戻ってきたアルさんです↓↓
ネック(竿)をいじらずに、調整した指板をもってネック全体を、弦高を上げることなくより弾きやすい角度に修正することが可能という発想。その技術の秘密は指板の接着面に隠されていて誰も見ることはできないのですが…
手が入ったのは黒檀の指板部分だけだから、他は変わりようがないのですね。
さて、左手は押さえやすくなりセーハもしやすく、響きも増したと思います。家に帰ってあらためていつも弾いている場所で鳴らしてみる。前より音、すごくない?前も良かったけど、ここまでではなかったよね??自問。そうでなきゃ困るんだけど・・今年の確定申告の還付金が、丸々修理代にとって代わることとなった偶然。
その晩。
アルさんのリフレッシュ帰還に余程安心したのか、OKストアのいつものリーズナブルなワインが素晴らしく美味に感じられ、
往復123kmを運転しただけなのに気怠い疲労感が襲う、幸せな22時。
昨年桜井さんと知り合わなければ、自分からこういう修理を誰かにお願いする発想はこれまでも今後もある筈はなく、「製作家という立場から演奏へのヒントをもらうこともできるよ」とアドバイス下さった北海道のギタリスト、渋谷環さんにも感謝の気持ちでいっぱいです。
人の出会いと、信じる事と。
アルさん帰還、おめでとう。
大昔にテレビで、競技用のスケート靴を素人に履かせて、プロ競技者が一般貸し出し用の靴だったら、という実験をしていたよ。素人が勝った。結論としては、道具も技能の一部ということ。
自分の道具を選ぶのも、使いこなして自分の一部にするのも、より良い状態に保つのも、これ全て、必要な鍛錬の一つ。ね。